初心者でもWEN

img_01
学部型大学が確立した後にも、教育を担う学部とは独立した幾多の大学附置研究所が設立されたが、伝研(医科研)は学部型大学とは対照的な、常に開かれたナショナルセンターとしての機能を果たしてきた。 医科研が伝研時代から100年にわたってその存在を主張できた理由の1つとして、第1線の研究とともに、いつもヒトの病気という視点から研究を行い、実践機関としての病院を備えていたことがあげられる。
基礎研究で得られた成果を実験的医療という形で発展させる場として研究病院を位置付け、維持発展させることは、医科研だけでなく日本の先端医療にとって、ますます重要になってきている。 ヒトの病気への理解が、ヒトゲノム解析やヒト疾患モデル動物の研究により急速に進みつつある現在、わが国で唯一これを扱う2つのセンターを持つ医科研が「ベンチからベッドサイドヘ」直結する開発医療で果たす役割に大きな期待が集まっている。
医科研には、すでに文部省の支援を得て、ヒトゲノム解析センターとヒト疾患モデルセンターが設置されているが、さらに、臨床研究部を中心とする先端医療センター(医科研病院)に至るゲノム医療開発システムをつくろうとしており、日本の先端医科学を担う使命をもっている。 ヒトゲノム解析やヒト疾患モデル動物の研究によりヒトの病気への理解が進みつつある中で、このゲノム医療開発システムは、医科研の特色である「ベンチからベッドサィドヘ」の技術的土台、すなわちテクノロジープラットフォームとなる。
また、医科研を基礎とするゲノム医療開発システムと総合病院が連携することにより、創薬をめざすテクノロジープラットフォームが形成される。 私は、医科研のゲノム医療開発システムに連携して、さらに分子設計・創薬研究センターを整備し、創薬から臨床治験に至る先端治療開発システムを形成することを提案している。
研究所病院を基盤とするこのシステムはまた、研究所の外部に設置される総合病院や全国疾患情報センターなどをもつ先端治療開発研究機構(AIMCS)とも連携する。 AIMCSは、政策誘導的に官・学・産を一元的に結集して、ベンチか先端治療開発研究機構らベッドサイドまで、すなわち創薬から臨床治験に至る中核的医科学研究機構の整備を目的に提案されているプロジェクトである。

わが国における先端治療開発システムを構築し、全世界的協力のもとに目的意識を明確にした先端的生命科学研究を進め、その成果によって難治疾患の攻略を可能とする先端的治療コンセプトを産み出し、治療方法の開発を進めようとするものである。 国内においては、先端治療医薬等の開発を中心に行うバイオベンチャーの育成、国外においては国際協調、とくにアジア太平洋地域にかなった治験体制、高度先端治療技術の交流、技術供与を行っていくための国際先端治療ネットワークの構築へと展開させていこうという構想である。
組織化の基本コンセプトは、既存の組織を超えてアクセス可能な開かれた状態で実現、国際的な連携、あらゆる壁を超えた世界の英知の結集、オープンな場づくり、大学と産業界の透明な連携、既存の枠を越えた人的交流、医科学の進歩の効率のよい社会還元。 環太平洋地域の先端医療のハブとしての活動である.生命科学分野におけるベンチャー企業の成功を通じて、21世紀を担う新産業の、日本における創出モデルを提示することも活動の基本として据えられている。
発足から2005年ごろまでは公的資金を投入し、それ以降は創薬・技術合同研究センターを中心とした収益により研究費をまかない、自立した研究組織となることを計画している。 このプロジェクトには、Hx研究所のNt社長も設立準備委員としてかかわっている。
ゲノム医療開発システムこうした先端治療開発システムとともに、創造的な研究を激励するために、個人の発想に基づく独創的な研究推進の場をつくり出すことも大きな目標である。 現代の医科学研究には2つの異なった要素が存在すると考えられる。
それはいわば、研究の2つの生命線、すなわち2つのライフラインにたとえられる。 両者とも先端医科学の発展にとって欠くことができない。
第1のライフラインは、個人の自由な発想に基づく研究で、多くの研究所では、通常の研究部によって代表される。 第2のライフラインは、目的志向型のシステ2つの生命線展はめざましく、T大学医科学研究所ではこれらの治療において必須となる細胞プロセッシングセンター(臨床細胞工学室)を設置し、研究を進めている。
ゲノム研究で、たとえば医科研に設置されたヒトゲノム解析、ヒト疾患モデル、先端医療などの研究センターはこれにあたり、個人を基礎とする第1のライフラインヘの支援機能も含む。 これら2つのライフラインの区別は、相対的なものではあるが、研究チームの構成、研究費配分の仕組み、研究成果の評価、研究スタイルなどに明確な違いがある。
もちろん、研究における最も大切な要素は人であり、サイエンスの基礎は究極的には個人の独創性にあることは、どちらのライフラインにも共通している。 広義の医薬品開発には、インターフェロンやホルモンなどのように、生命科学の基礎的研究から発見された物質がそのまま新薬や新しい治療法となる知識発見型創薬と、既知の物質や代謝経路を創薬ターゲットとする一般型創薬の2つのタイプがある。
伝研は常に知識発見型創薬のナショナルセンターの一翼を担ってきた。 私は、先端医科学の研究所の2つのライフラインの研究成果として、主として血液免疫、がん、変性疾患等に関連する発見型の新薬や新しい治療法が生み出され、研究所病院がそのための臨床治験の場としてその能力を発揮することを期待している。
連携する総合病院は、より一般の臨床治験も担うことができる。 「個人の自由な発想に基づく」優れた研究は個人の資質に依存する部分が大きく、その資質は、植物の生長に栄養が必要であるように、優れた環境を得ることによりはじめて開花する。

日本の研究システムの改革にあたって、研究の評価と任期制が問題となっているが、評価は研究者を単なる機械として見るのではなく、評価される者と評価する者の真剣な対面を通じて、研究者のよい面を伸ばすことが原点である。 評価にあたって、私は活発な研究者が、より自由に研究が進められるように、ポジティブな評価を行うことが重要と考えている。
免疫学の言葉でいえば、ネガティブセレクションでなく、ポジティブセレクションである。 研究者の能力を最大限に引き出すためには、研究者の個性と自由な発想を大事にし、そのアイデアを速やかに実行に移すことのできる環境づくりが大切である。
産業界の支援により大学研究所の研究は柔軟性を持つように改善されてきたが、大学研究所が創造的な研究環境をもつことは企業にとっても刺激となる。 本来、産学協同とは、企業に政府がなすべき研究支援を肩代わりするよう求めるのではなく、両者がその特徴を生かして相利共生の対等な立場で協力することである。
産学連携のために知的所有権を取り扱うオフィスを所内につくることも必要である。 たとえば医科研には、すでにAjホールに続き、科学技術振興事業団の協力により、オープンラボラトリー型のクレストホールが設置されている。